みなさん、こんにちは。神戸の社会保険労務士 山本純二です。
二十四節気のひとつ「雨水」。日本や中国で伝統的に用いられる季節の目印とされています。国立天文台のホームページをみると「陽気がよくなり、雪や氷が溶けて水になり、雪が雨に変わる」と紹介されています。寒さのピークも過ぎ、これから次第に春を感じることが多くなっていくのではないでしょうか。季節の移ろいを感じながら日々を過ごす、そういう気持ちのゆとりも大切ですね。
「かけ持ちOK」に潜むリスク
さて、春からの新生活に向けて、アルバイトさんやパートさんの入れ替わりが少しずつ増えてくるのもこの時期ならではの光景ではないでしょうか。新聞の求人広告を見かけたりすると小売業や飲食業をはじめさまざまな業種で、「Wワーク歓迎!」とうたっているものもあります。物価高の折、収入を増やしたい人ももちろんおられると思いますが、足りない人手を補う、そういう背景もひとつにはあるのかなと思います。
実際に面接で「午前中は近所のスーパーでレジをしているが、夕方からはこちらのお店で働きたい」と言われ、採用!っていうこともありますよね。ただ、ここに労務管理上の思わぬ落とし穴が潜んでいるので注意が必要です。きちんと管理しておかないと、仮に自社では短い時間しか働かせていなかったとしても、「他で働いた分の労働時間と合わせたら残業代の支払いが必要」となるケースが生じてしまう場合があるからです。
事例:1日トータル「9時間」働いた場合
労働基準法では、「労働時間は、別の会社で働いていても通算する(足し算する)」という原則があります。 具体的な事例で考えます。
A社(昼のスーパー): 9:00〜14:00(5時間勤務)
B社(夜の飲食店) : 18:00〜22:00(4時間勤務)
このパートさん。スーパーで5時間、飲食店で4時間働いてます。どちらの会社も、単独では法定労働時間の「1日8時間」に収まっています。 しかし、1日の合計で見ると「5時間+4時間=9時間」。 法定労働時間を「1時間」オーバーしています。
残業代はどっちが払うの?
問題となるのは、「1日8時間を超えた『1時間分の残業代(2割5分増し)』は、スーパーと飲食店のどちらが払うのか?」ということです。 原則は「後から雇用契約を結んだ会社」が支払うということになります。(※あるいは、その日のシフトで後から働き、8時間の枠をあふれさせた側の会社)
つまり、もともとスーパーで働いていた人を、後から夜のスタッフとして採用した飲食店(B社)は、自社では4時間しか働かせていないのに、「1時間分は残業代として割増賃金を払わなければならない」ということになるのです。
ちなみに、1日単位では8時間に収まっていても、「1週間の合計」が法定労働時間を超えれば、その分も残業代の対象となります。原則は週40時間ですが、常時働く従業員が10人未満の飲食店や小売業などの場合は特例として「週44時間」まで認められています。とはいえこの特例も見直しの方向で検討されています。自社がどちらの基準に当てはまるか事前に確認しておくとともに、見直しを想定して今のうちから週40時間を想定した人員配置を考えておいたほうがよいのではないでしょうか。
「知らなかった」では済まされない
そうはいっても「本人が他で何時間働いているかいちいち把握できない」というのが実際のところではないでしょうか。しかし、「本人の申告がなかった」ことを理由にしても労働基準監督署の調査などでは通用しません。もし未払い残業代のトラブルになってしまえば、過去に遡って支払いを命じられるというリスクもあります。飲食店にとっては利益率がシビアなもの。予定外の人件費増は死活問題です。
面接時に「たった一つの質問」を忘れずに
このようなトラブルを防ぐため、Wワークの方を採用する際は、実務的に以下の対応を徹底するようにしてはどうでしょうか。
- 面接で必ず確認する
「現在、他でお仕事はされていますか? されている場合、何曜日に何時間シフトに入っていますか?」
2.書面で自己申告させる
口頭だけでなく、採用時に「他社での労働時間」を申告する書面を提出してもらいましょう。
採用時のルール作りで、安心して働けるお店に
Wワークで頑張る方は、優秀な人材が多いのも事実。なので、会社として法的に正しく対応し、お互いが安心して働けるルールを作っておくこと会社も労働者も守るうえで大切なことではないかと思います。
以下に、すぐに使える「Wワーク状況の確認シート」を掲載しておりますので参考にしてください。
かけ持ち(Wワーク)状況の確認シート」
当店で無理なく、安全に働いていただくための確認です。
現在のアルバイトやパートについて、以下の内容をご記入ください。
お名前:____________
Q1.現在、ほかでお仕事をしていますか?
□ している □ していない
(※「していない」にチェックした方は、ここで記入終了です。お疲れ様でした!)
Q2.差し支えない範囲で、ほかのお仕事についてご記入ください。
*お仕事の内容(例:スーパーのレジ、事務など):[ ]
*1週間のうち、だいたい何時間くらい働いていますか? [ 週に 約 ___ 時間 ]
Q3.ほかのお仕事の「いつものシフト」をご記入ください。
※通勤時間は入れず、実際に働いている時間をお書きください。
- 月曜: 約 __ 時間 ( 時~ 時)←(例:9時~14時)
- 火曜: 約 __ 時間 ( 時~ 時)
- 水曜: 約 __ 時間 ( 時~ 時)
- 木曜: 約 __ 時間 ( 時~ 時)
- 金曜: 約 __ 時間 ( 時~ 時)
- 土曜: 約 __ 時間 ( 時~ 時)
- 日曜: 約 __ 時間 ( 時~ 時)
Q4.お互いに気持ちよく働くための「3つのお願い」
内容を読んで、確認のチェック(☑)をお願いします。
□ 無理のないペースで働きましょう かけ持ちは想像以上に体力を使います。疲れがたまってどちらのお仕事にも支障が出ないよう、自己管理をお願いします。
□ シフトの調整にご協力ください 法律のルール(1日8時間まで等)を守るため、どうしても希望通りのシフトに入れない場合があります。あらかじめご了承ください。
□ 状況が変わったらお知らせください ほかのお仕事を辞めたり、勤務時間が大きく変わったりしたときは、遠慮なく店長までお声がけください。
最後に
・提出されたシートの「1日の合計が8時間を超えないか」「1週間の合計が40時間(※)を超えないか」をチェックし、自社で入れられるシフトの時間を計算してくださいね。
・テンプレートはお店を想定しています。ご利用される場合は「当店」「店長」などの部分は自社の状況に合わせて適宜「オーナー」「採用担当」などに書き換えてご使用ください。
※【補足:週44時間の特例と今後の備えについて】 飲食業で、常時10人未満の店舗であれば、「週44時間労働(特例措置)」が認められていることはご存じの方も多いと思います。 しかし、この「44時間ルール」の見直しが検討されています。まだ正式に決まったわけではありませんが、「44時間働いてもらうのが当たり前」というシフトを組んでいると、将来的に法改正があった際、人手不足や残業代の増加で慌てることにもなりかねません。
「Wワークの合算」だけでなく、「自社の労働時間のルール」そのものも、今のうちに見直しておいてもいいのではないかと思います。
